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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)1013号 判決

主文

被告は原告に対し金六七六、〇〇〇円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金二二万円の担保を供するときは仮に執行できる。

事実

原告は、主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、請求の原因として、並に被告の抗弁に対して、次のとおり陳述した。

一、被告は訴外東洋自動機械株式会社宛に左記約束手形各一通を振出した。

〈省略〉

二、右訴外会社は(1)(2)の手形を訴外株式会社住友銀行に裏書譲渡し同銀行は、これをいずれも満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、拒絶せられ、同銀行泉大津支店長は昭和三三年一一月二七日右各手形を訴外東洋自動機械株式会社に戻裏書して譲渡し、原告はこれを同日同社より裏書譲渡を受け現在これが所持人である。

(5)の手形も右と同様の経過で同日原告が取得したので、同銀行に取立委任裏書して満期に支払場所に呈示して支払を求めしめたが拒絶せられ、現在原告がこれを所持している。

(3)、(4)の各手形は原告が訴外東洋自動機械株式会社から裏書譲渡を受けて、訴外泉大津信用金庫に裏書譲渡してあつたところが、同金庫はこれを訴外株式会社住友銀行に取立委任裏書をしていずれも満期に支払場所に呈示して支払を求めしめたところ拒絶せられたので、原告は同金庫に手形金を支払つてこれを受戻した。

三、よつて本訴を以て右手形金合計六七六、〇〇〇円の支払を求める。尚、(1)(2)の手形は期限後裏書を受けたものであるが、原告がこれを取得するに至つたのは、訴外東洋自動機械株式会社が原告の紹介により右各手形を訴外株式会社住友銀行泉大津支店から割引を受けこれを同銀行に裏書譲渡したものであつたので、原告は同銀行よりこれが買戻を請求せられ、紹介をした責任上原告の資金で買戻をしたが、形式上は訴外会社が戻裏書を受けこれを原告に裏書したことにしたのである。

被告の悪意取得の抗弁は否認する。

被告は、主文同旨の判決を求め、次のとおり答弁した。

一、被告が原告主張の各手形を振出した事実、及び原告が(1)(2)の各手形を期限後裏書により取得した事実は認めるが、その余の裏書譲渡の関係は争う。(3)(4)の各手形は割引のため原告名義としたのみであり、(5)の手形も名目のみ原告が所持人となつているのであつて、いずれもこれが正当なる所持人は訴外東洋自動機械株式会社であつて、原告ではない。

二、本件各手形は被告が訴外東洋自動機械株式会社と同社振出の同類の約束手形と交換したものであつて、右訴外会社がその振出手形の支払をしたとき被告も本件各手形を支払う義務を有するに至ることになつていたところ、右訴外会社はその振出手形をいずれも不渡としたのであるから、被告も本件各手形の支払義務がないのである。

しかるに原告は右訴外会社の取締役であるから、仮に本件各手形を取得したものとすれば、右事実のために被告を害することを知つてこれを取得したものである。しかも(5)以外の各手形は期限後裏書により取得しているものであるから、被告は原告に対しても右訴外会社に対抗できた前記事由を以て抗弁とし、本件各手形金の支払を拒否するものである。

証拠(省略)

理由

被告が原告主張の各手形の振出をした事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一ないし第五号証と原告本人尋問の結果とを合せて考えると、右各手形は原告主張のとおり裏書譲渡せられた事実、いずれも呈示期間内に支払場所に呈示せられた事実、及び、原告がその主張の如く(3)(4)の各手形を受戻した事実が認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

前記甲第一ないし第五号証、証人玉田順治の証言、同証言により成立を認めることができる乙第二ないし第四号証、並に被告代表者本人尋問の結果を合せて考えると被告は訴外東洋自動機械株式会社との間でそれぞれの振出手形を融通し合つて、一方の手形が不渡となつたときは、他方もその手形金の支払義務がなくなる定めで、相互に満期を数日相違させた同金額の手形(双方の手形がそれぞれ同一金額、又は一方の手形金と他方の数通の手形金の合計とが同額)を交換していたが、原告主張の各手形も右の例により交換した融通手形であることが認められる。

そして、右訴外会社が、原告主張の(3)(4)(5)の各手形と交換した同社振出の各手形を不渡にしていることは前記乙第二ないし第四号証と証人玉田順治の証言によりあきらかである。しかしながら原告主張の(1)(2)の各手形と交換せられた右訴外会社振出の各手形については、証人玉田順治の証言及び被告代表者本人尋問の結果によるもそれがどのような手形であつたかを認めることができなく、他にこれを認定するに足る証拠がない。加うるに右証人及び本人の交換手形支払の有無に関する供述は具体性がないからこれによつては右訴外会社提出に係る交換手形の不渡の事実を肯定することができない。従つて右(1)(2)の手形に関する被告の抗弁は採用できない。

更に、原告が(3)ないし(5)の各手形取得当時、これが前記認定のとおりの融通手形であることを知つていたとの被告主張の事実については、証人玉田順治の証言及び被告代表者本人尋問の結果だけでは、原告本人がこれと反対の供述をしていることにかんがみると、これを肯認するに十分でなく、他に右事実を認めるに足る的確な証拠がない。そして(3)(4)の各手形は被告主張の如く原告が期限後裏書による取得者ということができないことは、前記認定の原告の右各手形取得の経緯によりあきらかである。他に(3)ないし(5)の各手形取得に対し原告が被告を害することを知つていたことを肯定するに足る証拠がないから、この点に関する被告の抗弁も採用できない。

しからば、被告は原告に対し右各手形金合計六七六、〇〇〇円を支払う義務あるものというべく、これが支払を求める本訴請求は正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

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